ターンテーブリズムの可能性

柿崎:ありがとうございます。様々なジャンルのアーティストが集まることで生まれるクリエイティビティを体験できるのがフェスなんだなと改めて思いました。ところで、ターンテーブリズムに話を戻しまして、他の楽器と比べて、機械というか装置に近いイメージを持ってしまうのですが、プレイの時のターンテーブルと演奏者の関係はどうなっているのでしょうか。

KENTARO:ターンテーブルのすごく好きなところは、機能に限界があるところです。スピードを調節する部分、スタートとストップ、あとは回転。限界があるんですけど、逆にそれに乗せるレコードには限界が無いんですよ。音源と言ってもいいかもしれません。世にあるレコードの数だけ違う音楽が流せるという。だからロックだろうがジャズだろうが、自分の好きなように音楽を料理できるんです。そこがすごく無限というかDJの特権というか。オールジャンルでもいいし、日本の和の楽器でもいいし。そういうレコードを乗っけて調理する。よく料理人みたいだと言われますけど。素材をリミックスするという。

柿崎:なるほど。無限の音源を使って音楽を料理していくイメージですね。機材という点で言うと、KENTAROさんがDJを始めた頃と今とではかなり進歩しているんですか?

KENTARO:結構面白かったのが、ギター型ターンテーブルというのがありまして(笑)。担げて、斜めにかけて手でこう擦る、みたいな。それから、ボタンがたくさん付いたターンテーブルが出たこともありました。でも、それは認められなかったんです。逆にベーシックなTechnicsのターンテーブルに戻ってしまうんですね。限界があるから逆にいいんだと。TechnicsのSLシリーズというターンテーブルがあって、世界のどのクラブに行ってもあって、僕も家で使っているという。中学校の時に買ったターンテーブルと何も変わってないし。そういう意味ではもう進化しなくてもいいのかなと思います。ターンテーブル自身は。

柿崎:レコードを触るという感覚的な部分についてもう少し教えてください。

KENTARO:時間を操るというか、曲を戻したり出したり移動させるわけだから、楽譜も存在しないし、レコードに触って、感覚をつかんで体で覚えていくしかないですね。

柿崎:それでは最後に、今後の活動について教えてください。

KENTARO:10月23日のワルシャワから始まって11月15日のリヨンまで「European Tour 2008 Vol.2」ということで、ヨーロッパを回ってきます。その後帰ってきて、年明けは「Australian Tour '09」ということでオーストラリアですね。今後は、他のジャンルのアーティストとのセッションをしていきたいと思っています。今までもサックスや三味線のプレーヤー、横笛と色々やってきましたが、これからは絵描きの人のライブペインティングを一緒にやったりとか。僕が音を出している時に、それを聞きながら絵を描いたりとか。そういう意味では、僕と全く違うジャンルのアーティストと刺激しあって、お互いの魅力を見つけあって、それを高めあうのが理想なので、そういう活動は続けていきたいですね。その理由の一つにはターンテーブリズムを広めたいということもあって、まだまだアンダーグラウンドな分野なので。「DJってクラブで曲かけるだけでしょう?」という人たちもいるわけです。そういう人たちに不器用な楽器として紹介していきたいんですね。ただ曲をかけて盛り上げるだけでなくて、クリエイティブだったり、違う発想というか、元々は聞くものであって、スクラッチしたりミックスしたりするものではないので、固定概念に捕らわれてはいけないというメッセージも伝えて行きたいですね。言葉で言わなくても、見ている人が「あんな操作をするんだ!」と感じてくれればいいですし。全く違うジャンルの人と一緒にやってみて「おお、すごいね!」と言われたり。そういうことですね。

柿崎:確かにターンテーブルの本来の機能という固定概念を変えているのがターンテーブリズムなのだということがわかりました。FesLabで開催予定のフェスには是非出演頂ければと思います。今日は「SENDAI COLLECTION」でお忙しい中、本当にありがとうございました。

(2008.10.19 柿崎慎也)

dj KENTARO(ディージェー ケンタロウ)
世界最大のDJバトルDMC WORLD FINAL 2002において、圧倒的クリエイティビティとスキルでアジア人初の世界チャンピオンに輝く。その後も、NO WALL BETWEEN THE MUSIC=音楽の壁を取り払い刺激し合おうという信念の元にフロアーをロックし続ける。2006年4月にはイギリスのNINJA TUNEとアーティスト契約を交わし、念願の1st ソロ・アルバム『ENTER』が2007年に全世界リリースされた。 この細分化された世の中において、様々な生き方の人間から絶大な支持を受けるNO.1ターンテーブルプロデューサー。
Contact: http://www.djkentaro.com/