テクノロジーの進歩と音楽制作について

柿崎:そうですね。音楽は言葉であり言葉を超えたものであるというか。そこで、音楽制作について話を戻させて頂きますが、技術の進歩が音楽制作に及ぼす影響についてはどう考えていますか。

ナカムラ:結局、技術を使って「人」が伝えるということがまず前提にあります。人の顔をカメラで捉えて感情を読み取る研究をしている僕の友人がいるのですが、これからは人の表情を見て、その人が聞きたがっているような音楽をすすめるようなコンピューターが出てくるかもしれないと言っていました。僕は「それはあかんぞ!」と言いました。それはやっぱり人間が探す方がいいだろうし。テクノロジーが進歩するということは、それを使うために進歩するのであって。だから楽器とかも一緒ですよね。楽器に負けない。今はコンピューターが1台あったら誰でも音楽が作れる時代ですが、わかるんですよ。「あ、これはソフトウェアに作らされているな」とか。何かを作る時には、そのために作り手一人ひとりが「考えていること」が大事です。だから、100万人いて100万人全員がいいと思う音楽なんてないはずなんですが、あるから面白いなとも思います。

僕は、ライブの時、キーボードを指で1音ポーンと弾いた時、「ナカムラヒロシや!」と思わせるようなプレーヤーになりたいと言ったことがあります。滅茶苦茶うまい演奏が、人の心を揺さぶるかと言ったらそれは違うなと。計算し尽くされたような芸術性ももちろんあると思いますが、僕は、もっと人間くさい音楽がしたいと思っていて、アルバムにミスタッチも入っているんですよ。たまらないミスタッチみたいな(笑)。もちろん、コンピューターで編集もします。ただ、その編集の技術を使うのは僕なので、完璧に編集しようとは思わないわけです。人間くさいことを、テクノロジーを使ってちゃんとやりたいと思っています。

柿崎:テクノロジーと人間の関係について考えることが多いのですが、今ナカムラさんがおっしゃった事は、一つの回答になるような気がします。人間が操作するテクノロジーはどう進歩しても人間くさいものが付着したものであってほしいと思います。では次に、ナカムラさんがクラブミュージックを作るきっかけについて教えてください。

ナカムラ:とにかく僕は子どもの頃から雑食耳で(笑)。YMOとチャゲ&飛鳥と長渕剛を一緒に聞ける小学生だったんですよ。それからずっと2ウェイでしたね。クラブミュージックというものに行き着いた理由は、ロンドンに住んでいた時に現地のカラオケボックスのようなノリのクラブを見て、日本もこんな風になればいいなと思ったのがきっかけです。日本のクラブはおしゃれでスノッブなイメージがありますが、ロンドンでは会社帰りにカラオケに行く感覚でクラブに行くんですね。特におしゃれでもないですし。おしゃれでスノッブだとみんな行きにくいじゃないですか。日本には、そういうクラブカルチャーが根付いてしまっていると思うんです。ロンドンのクラブカルチャーは街の生活に密着していて素晴らしいなと。敷居も全然高くないんです。おじさん達も行くし。それがいいんです。日本だとおじさんがいても、30代とか悪い40代とかでしょ(笑)。会社帰りにスーツではなかなか行けないですよね。日本も変わってきたとは思うんですが、もっと普通の子が来れるようになったら面白いんですけど。「行きにくいな」と思わせた時点で、そのシーン自体が惜しいんです。だから、そういう日本のクラブカルチャーでやってきた僕らの音楽が、ジャズフェスの時、70代のおじいちゃんやおばあちゃんが手を振って歌ってくれたりして自然に受け入れられて。「僕らの音楽、クラブ以外でも機能するんだ」と。クラブ行っても、踊らなくても、聞いているだけで十分いいと思いますし。「クラブって何?」という話になってくるんですけどね。コミュニケーションということが鍵だと思いますけど。最近は、クラブミュージックということを度外視して作るようになってきてますけどね。お客さんを踊らせるだけだったら、ドラムとベースだけで曲作ればいいと思ったりするので。メロディーがあって歌詞がある時点で、そのメッセージを伝えたい、つかんで欲しいというところがあります。