コミュニケーション・ツールとしての音楽

柿崎:やはりコミュニケーションということですね。

ナカムラ:ロンドンで英語がまだしゃべれない時に、飛び入りでジャズのセッションに行ったんですよ。英語でしゃべるよりも実はそっちの方がうまくコミュニケーションできたんです。一時期、本当に英語が上達しない時期があって、ちょっと落ちこんでいたら、ブラジル人の友達が「お前にはピアノがあるやないか」と完全なラテンなまりの英語で言うわけです。その時に「音楽はコミュニケーション・ツールなんだな」と初めて思いましたね。僕は曲を作り始める前に、どんなメッセージを込めるかということについてものすごくたくさん人と話をするんです。人間にとって次はどういうシステムがいいのかとか(笑)。金が一番というのはよくないなとか。そういう話を1ヶ月くらい続けるんです。やっぱり個人一人ひとりが自分の理想を掲げて刺激し合うようになると変わってくると思うんですけどね。柿崎さんたちがやろうとしているフェスなんて、理想の固まりじゃないですか。それを大勢でやる必要はなくて、わかる人がわかる人たちと、みんなにわかるようにやってあげるのが多分すごい大事なことだと思います。志がある人が「こんなんもおいしいやろ」「こんなんもいいやろ」というように紹介していくことが必要だなと。僕らもフェスは東京でもやっているものの大変だなというのが実情なので、ぜひ実現してほしいですね。

柿崎:ありがとうございます。フェスで得られるものについてはどう思われますか。

ナカムラ:仙台の荒吐ロックフェスティバルもそうなんですが、音楽を丸一日楽しんでいる人はいい顔をしているというのを見れるのがアーティスト冥利に尽きるなと。その日のお客さんの顔っていうのが最高ですよね。フェスはそれに尽きますね。それからオーガナイザーや大勢のスタッフへの感謝ですね。ありがたいと思います。フェスの帰りは本当にテンション上がって帰って来ます。やっぱり祭なんですよね。音楽祭でやる方がテンション上がらなかったら、聞く方もあがりませんよ(笑)。

柿崎:これまで色々なフェスに出演されてきたと思いますが、印象に残っているフェスは何でしょうか。

ナカムラ:一個も忘れてないと思いますよ。どれもやっぱり雰囲気が違うので。ただ、僕たちが毎年やっているフェスは特別です。特色がないフェスは続かないと思うんですよね。どこかと一緒、東京からそのまま持って来たというのもすごいヘッドライナー入れてやれば盛り上がるんでしょうけど、そうじゃなくて仙台でしかできないフェスというものが実現できればいいんじゃないですかね。

柿崎:そうですね。最初から地域性を出していくというものよりもフェスの個性を出していくことで地域性が引き出されるというスタイルを考えています。i-depが毎年開催しているフェスというのはどのような個性の出し方をしているのですか。

ナカムラ:僕らは、1年でその日が、お客さんが一番笑う日にしたい、笑顔でお客さんが音楽を楽しめる日にしたい、ということをコンセプトにやっています。「festa do i-dep!!!-market-」という名前でやっているんですが、海外の市場って売り場丸出しじゃないですか。だから僕らの音楽も丸出しにして、お客さんも笑顔丸出しになってというテーマでやってますね。それともう一つのコンセプトが、全部手作りということです。メンバー全員で朝から仕込んでます。もう祭りですね。i-dep祭。真剣にふざけてる感じで。ただ、お客さんに伝わるコンセプトをきっちり出すことが大事かなと思います。そして、集客だけ考えるのでなく、紹介したいアーティストを紹介しようということも大事にしています。バルセロナのsonarも毎回ブランディングはスタイリッシュなんですが、ウィットに富んでいるんです。ちょっとふざけてるというか。笑ったのが、物販のTシャツに「I'm not a DJ」とか書いてるんです。お客さんがそれを着てる(笑)。今年のメインキャラクターは、というところでマラドーナだったり(笑)。うまいこと企業を使っているので、デザインはしっかりできているしウィットもあって。キーコンセプトは毎年変わるんですよね。バランス感覚が優れてて、最先端の音楽も紹介しつつ大御所もきちんと取り込んで。うまいと思います。レーベルがたくさんあるヨーロッパという地域ならではのフェスですね。気候もいいので、芝生の上に寝転がりながらエレクトロニカという。イビサみたいに南の島へ行って、水着でウワーというのではないんですね。もっとカジュアルで、ピクニックみたいな。世代問わずに来るという。

柿崎:やっぱり私たちが考えているフェスも、子どもたちからお年寄りまで来て欲しいと思っています。そこに実験的な要素も入れながら。