「こんな音楽もあるんだ」ということを紹介していくこと

ナカムラ:そうですね。最初は「こんなのもあるんだ」ということでいいと思うんです。小学生が「こんな音楽もあるんだ」ということを知っておくことが重要なんです。世界には300枚しか売れないCDがいっぱいあって、でもそれは、300枚売るために作られた音楽であって、商業的なものではなくて、アートなんだよということを教えてあげることが大事だと思います。音楽で食べて行けるのはもちろんうれしいんですけど、やっぱり、食べていくことだけではない音楽の表現の仕方というものを作っていかなければならないと思っているんですよ。制作に1枚1億円かかったアルバムと自分の家で好きなように作ったアルバムのどっちが長く聞けるかと言ったらわからないわけです。家で作った方が友達から「おもろいやん」となったりして。音楽の価値観にはすごく敏感になっていますね。だからビジネスじゃない音楽もぜひ紹介してください。ただ、ものすごいイバラの道ですよ。そのフェスに対するアーティストの情熱がとても大事になってくると思います。そのフェスを面白いとわかってくれて、ステージに立つ前にもプロモーションしてくれるような。僕は、仙台でそのようなフェスをやろうとしている人たちがいるということをとてもうれしく思ってます。東京ではなくて仙台というところで。

柿崎:ありがとうございます。

子どもたちが遊べるインターフェース

ナカムラ:東京でスタイリッシュにやって「わかるやつだけわかれ」というのはもういいんです。だから、わかりやすく小難しい音楽の存在を伝えて、しかもエンターテイメント性があって、子どもでもわかるように。科学博物館とか行くと楽しいじゃないですか。ボタン押したら何か起きるような。ああいうインターフェースを街中に置いた上でそれを使ってプロが演奏するとか。インターフェースを作って、楽器メーカーと組んだらいいんじゃないですか。子どもがエレクトロニカを遊びで作れるようなインターフェースがあったら楽しいな。落書きをするみたいに。音楽を始めるのに敷居が高い気がするんです。ピアノも高いですし。だから安くて子どもが興味を持って「音楽ってこんなに簡単にできるんだ」と思うようなものを作りたいですよね。

柿崎:そうですね。FesLabのコーディネーションで、子ども達に音楽制作の楽しさを伝える新しいインターフェースを開発できたらいいなと私も思っています。そのためのワークショップを開いたり。

ナカムラ:やんちゃでへんてこりんなものができるといいですね。今の子どもたちはある意味かわいそうなところがありますよね。ゲームって大人が作ったもので、子どもたちは遊ばされているんです。僕たちが子どもの頃は、自分たちで考えた遊びを、自分たちのルールで遊んでいた記憶があります。それが面白いかどうかは本人が決めるという価値観を子ども達に伝えていかなければなと思っています。「上手な習字ってなんじゃそら」と小学生の時言ってたんですが、手本通りって。読めない字書いてもいいと思っていたんです。音楽も同じですね。今一番興味があるのも、世界で300枚しか売れない僕のスケッチと言うべきCDを自分の家で作り続けて行くことですし。食べれるようになったからこういうことを考えるようになったのかもしれませんが。人が作った曲を人が聞いて人が何かを起こしていくというのは、大事ですよね。

柿崎:そうですね。今日のお話を聞いて確信したのは、音楽を自由自在にデバイスに入れて持ち運べるようになっても、1回性の音楽を共有する場としてのフェスの意義は変わらないということですね。

ナカムラ:そうだと思います。やっぱり一緒の空気を吸うのは大事です。だから曲を作る時も一緒に作っているメンバーの表情は見ますよ。その曲がいいのか悪いのか。それと同時にじぶんだけの曲作りの時には誰の顔も見ない。その両方がなければということです。フェスについては一体感とウィットがポイントでしょうね。

(2008.11.01 柿崎慎也)

(今回のインタビューは、2008年11月に収録されたものです。2009年4月にi-depはバンドとしての解散を発表し、Hiroshi Nakamuraのソロユニットとして新たな一歩を踏み出している。)

ナカムラヒロシ [Producer/DJ]
1999年、瓦職人から華麗なる転身を遂げ、ロンドンにて音楽活動を開始。 i-depが最もプレミアムなバンドとしてシーンから注目を集める現在に至るまで、リーダー&コンポーザーとしてバンドを牽引している。また、累計40万枚を超える驚異的なヒットを記録している"Sotte Bosse"をはじめ、国内・海外の著名アーティストのプロデュースも手がけ、プロデューサーとしても揺るぎない地位を獲得。ハウスをバックグラウンドに、ジャズ、ファンク、ラテン、テクノ、ヒップホップといったあらゆるジャンルの音楽を飲み干し、新たなi-depサウンドとして昇華させる彼のクリエイティビティは、ハウス/クロスオーバーシーンにおける新たなトレンドセッターとして常に注目されている。
Contact: http://www.i-dep.jp/