都市に対する視点を換えてみる

柿崎:先人の作品が与えてくれる励ましというのは良く理解できます。100年前の絵画の前に立った時、作家は亡くなっているのにとても「生きている」と感じる瞬間があったりします。確かに本物の前では五感を総動員してしまいます。それではここでお伺いしたいのですが、フェスが人々の集まる場として機能するためにはどのようなことが考えられますでしょうか。

三上:テーマと実際の展示とエンターテインメント性の問題があると思います。中でもエンターテインメント、娯楽性は重要ではないでしょうか。フェスに参加した人が満足感を得られるかどうかですね。美術館の場合は限られた美術ファンというマーケットなわけですが、フェスのように一般的な市民も取り込んでいこうとすると、エンターテインメント性のあるアーティストやデザイナーをどう取り入れていくかということになります。今の時代が求めているところなので。たとえばWOWの鹿野さんの作品などは、エンターテインメント性とインタラクティブな点で子どもたちも大人も満足できる遊びの要素があるわけです。これは、アートと市民を結ぶインターフェースとしてとても重要なポイントだと思います。特に子どもたちや若い世代にとって。これまでの美術館と市民を結んでいたのは教養でした。美術との接点が知識だったのです。本で読んだからとか、調べたからということが接点で美術に入っていくということです。これからは、市民と接点ということをどう考えていくかだと思います。それは、美術館としても大きな課題です。

柿崎:もう一つ、フェスを開催する際に場所の問題があるのですが、場所の選定についてどう考えたらいいのでしょうか?

三上:美術館、博物館や歴史民俗資料館などのスペースは、都市のショールームとして、市民、県民の宝なのではないかと思います。積極的に都市の中で展開していくことを考えるのであれば、公共施設はもちろん、商業スペースとうまくコラボレーションするとオシャレな展示はできると思います。集客性を考えるとそうした町の中心部で高感度な人が集まるところでしょうか。そこで、ディレクターやキュレーターの方の個性が出てくるといいですね。あと、誰もやっていないところでやりたいなというのはありますね(笑)。それはアーティストと一緒に考えながら探していくといいのではないでしょうか。私の仕事の楽しみも実はそういうところにあったりします。「ここにあの人の作品を置いてみたい」ということですね。常にそういうことを考えていると都市に展示空間として使える場所が色々とあると思います。そのためにも、都市を見る視点を変えてみるのもいいかもしれないですね。ディレクターが100人いれば100通りの考え方があるわけですし。

柿崎:FesLabで想定しているフェスに三上さんが期待することがありましたらお聞きしたいのですが。

三上:やはり、フェスティバルとしてのオリジナリティに期待しますね。オリジナリティがなければ、東京でやってもニューヨークでやってもいいわけですから。それから作品の再発見というところでお話したような、展示空間の再発見。どうやって新しい展示空間を開拓していくのかということで、都市の使い方や遊び方みたいな視点で市民のライフスタイルをデザインするというのはありでしょうね。暇な時間にどこで何をするのかといったような。そういう提案が見えてくるようなもの。それから、デザインだとどうしても企業との関わりが出てくるので、経済活動としてのイベントの要素とクリエイティブな遊びの部分とでどうバランスを取っていくかということも重要です。企業とスマートにコラボレートしていければいいですよね。つまりイベントのデザインをするということです。