現在と過去、未来を結びつける体験の場

柿崎:ありがとうございます。そこで少し話は戻るのですが、仙台でフェスをやる意義についてどう地域性を出していくかということについてもう少しお話をお聞きしたいのですが。FesLabスタッフでは、仙台でしか見ることができない、聞くことができない時間、空間を世界に発信していくということを考えていたのですが。

三上:これは悩ましいですよね。この都市にどんな空間としての財産があるかというのを調べた方がいいのではないでしょうか。「ここで聞きたい」「ここで見たい」という場所を見つけ出していくということです。
 最終的には仙台の都市デザインとも関わっていく問題であると思います。空間の価値というのはその時だけではなくてもっと長いスパンで考えていかなければならないもので、そういう場所を見つけ出していく事が、このフェスの成否を分けるところのような気がします。たいがいのものはどこへ行っても手に入るわけだし、ここで見る、ここで聞くというプレミア感がついた場所をいくつ用意できるかだと思います。そしてそれが参加者の共感を得られることが重要です。メディアテークをコアにして定禅寺通に展開するというのは、やりやすいと思いますが、プラスアルファの発想が欲しいところです。町おこしレベルのものではない方がいいと思います。
 地下鉄東西線が開通すると、東北大学の川内キャンパスにも駅が出来て、国際センターにも駅が出来ることから、近隣の施設間の連携を強めようという話はしているので、この周辺も面白い空間にはなると思います。大学というのは重要ですね。仙台に芸術系の大学や学部がもっとあればいいのですが。アートが好きな若い人がたくさんいるというだけで町は活気づきます。

柿崎:そうですね。フェスにしても大学がコアになっているのは非常にわかりやすいと思いますね。フェスではシンポジウムやワークショップもメインとなるので、その会場としても望ましいですね。

三上:建築系の方たちにアプローチしてみてはいかがですか?仙台は建築に関するクリエイティビティは高いと思いますし。

柿崎:フェスが都市デザインの一つの要素として機能するものと考えると確かにアプローチする必要がありますね。それでは最後に、今後の美術館の活動についてお伺いしたいのですが。

三上:アーティストも作品の発表の場所が美術館やギャラリーに拘束されなくなっているので、作品を展示する場や空間の問題というのはとても大事です。場とどう関わっているかということも作品の質として問われていくでしょうから。
 美術館の展示を考えると、液晶画面がいずれ絵画と同居する可能性もあるでしょうね。壁面に掲げられたフレームの中に展開する画像という形式としては、何百年も前の絵画と同じように見ているわけですから。アートには、変わっていくものと変わらないものとがあるのです。そういう意味では、美術館という場所は変わらないので美術館でしか見られない作品を紹介していくということがテーマですね。
 それから美術館は、博物館もそうですが、コレクションというものと結びついています。発表する場所はどんどん変化していきますが、アーカイヴとして資料を蓄積していくという大きな役割があるのです。そのコレクションに対する考え方が変わっていく気がします。極端な話、ビデオやインタラクティブ•アートのようなものだと、ソフトだけでなくそれを出力するためのハードウェアもコレクションしなければならないわけです(笑)。活動の場として創造的な行為を発表し続ける空間では有り続けるかもしれないけども、創造的な行為の痕跡や記録をどう集めていくかということは変わっていくでしょう。
 ミュージアムは、最終的に自分は何者なのかということを探しに行くところだったりするのかもしれません。アルバムのようなものです。そして歴史の蓄積の中で現在と過去をどう結びつけるのかというのが私たちの仕事ではないかと思っています。

柿崎:自分が何者なのかを探しに行く場所ですか。そして、現在と過去、現在と未来を結びつけていくということは、フェスの本質とも関わってくる話ですね。フェスに人々は非日常を求めて行くのかもしれないけれど、実はそこで向き合うのは自分と、自分と世界がつながるとてもリアルな体験を得ることなのだという気がしてきました。

(2008.9.10 柿崎慎也)

三上満良(ミカミミツロウ)
宮城県美術館学芸員
1954年宮城県生まれ。早稲田大学文学部卒。1981年より宮城県美術館に学芸員として勤務し、近代彫刻、写真・映像分野を担当。近年の企画展として「花人中川幸夫の写真・ガラス・書」(2005年)、「アートみやぎ2007」(07年)、「日本彫刻の近代」(07年)。仙台圏のミュージアム連携事業SCAN仙台芸術遊泳2005、2007の統括キューレターをつとめる。
Contact: http://www.pref.miyagi.jp/bijyutu/museum/